Possession,Behavior,Presenceという3つの視点
クライアントが成長するために、コーチはどんなことを大切にしているのでしょうか?
クライアントの状態を把握するため、コーチは3つの視点を持っています。
それは「Possession(身につけるもの)」「Behavior(行動)」「Presence(考え方、信念)」です。
これを「PBPの視点」と呼びます。これらはなぜ大事で、それぞれどういったものでしょうか?
新任営業課長のAさんを例に考えてみましょう。Aさんの目標は課の半期目標を達成することです。
(1)Possession(ポゼッション)
第一に、目標に向けて必要な知識・スキルを身につける必要があります。
そこでコーチはクライアントの知識やスキルといった「身につけるもの」(Possession)について考えます。
Aさんの場合、初めての管理職ということでマネジメントのスキルが十分でない可能性があります。
定例業務の進め方や部下の状態の把握といった毎日のことから、課の計画の立て方、しょうか面談の仕方、クレーム時の対応ということまで、Aさんに管理職として身につけるものがどの程度備わっているかを考えるのがPossessionの視点です。
こうしたPossessionがあってこそ、行動(Behavior)が有意義なものになります。Possessionの視点からのコーチの質問例としては、次のようなものがあります。
- 「理想としている状態に近づくため、自分に必要なものは何ですか?」
- 「目標達成のために、どんな分野の情報が必要ですか?」
- 「自分が今持っている知識やスキルで使えそうなものは何ですか?」
こういった対話を通して、Aさんに必要なスキルや知識(Presence)を明確にし、獲得するためのプランを作ります。
(2)Behavior(ビヘイビア)
次に、Possessionを活かして行動(Behavior)を起こす必要があります。
目標達成のための計画を練る、部下1人ひとりに目標を伝える、指示する、相談に乗るなど、数多くの行動が積み重なって目標は達成されます。
目標達成において行動は必要不可欠です。
コーチはクライアントがどんな行動をするか、どのくらい行動しているかなどのBehaviorに注目したコーチングを進め、支援します。
質問例としては、次のようなものがあり、対話と通して目標達成のためのアクションを促進します。
- 「やろうと思っていて実行できていないことは何ですか?」
- 「目標を達成するために今日からできることは何ですか?」
- 「時間のセッションまでにどんなことをやりますか?」
(3)Presence(プレゼンス)
Aさんが必要なスキルを身につけ、それを活かした行動をしても、それだけでは上手くいかない場合があります。
それは、Aさんが頭では分かっていても本心では分かっていないことがあるからです。
そこで、コーチはクライアントの考え方(Presence)についても確認します。
Presenceについての質問例は、以下のようなものがあります。
- 「あなたが大事にしている価値観は何ですか?」
- 「環境の変化に合わせて、自分が変化すべきことは何ですか?」
- 「その目標を達成することは、あなたにとってどんな意味がありますか?」
以上のように、コーチは「Possession」「Behavior」「Presence」の視点を考えながらクライアントに関わります。
クライアント自身が「目標達成のためにマネジメントスキルを鍛える必要がある」とPossessionに注目したアプローチを話したとしても、コーチは「本当にそうなのか。他の視点で考えるとどんな状態にあるのか」と考えながら話をするのです。
PBPの3つの視点はそれぞれ独立して整理できるかというとそうではありません。
クライアントの中で3つ要素はそれぞれ関係しています。
1つにこだわって視野が狭くならないよう注意する必要があります。
PBPの何が必要なのか見極める
コーチはPBPの要素のうち、今相手は何を必要としているのかを考えます。
単にスキル不足なのか(Possession)、十分考えていて行動を起こせていないだけなのか(Behavior)、実施すること自体に迷いがあったり、意味づけが曖昧だったりしていないか(Presence)、対話を通して聞いていきます。
新人社員の育成を例にして紹介していきましょう。
新人社員のB君はやる気があり、仕事を任せた時も嬉しそうに「がんばります!」といって仕事につきます。
しかし、任せた仕事がなかなか進まないということがよくありました。
話を聞くと、B君は会社にあるコンピュータソフトは使ったことがなく、マニュアルと格闘しながら仕事しているといいます。
この場合B君はPBPのうち何を高めるべきでしょう?
3つの視点で考えてみると、次のようになります。
- Possession:業務に必要なコンピュータスキルが不足している
- Behavior:やる気はあり、行動を起こしている
- Presence:「1人で解決する」という考えを持っている
Behaviorは問題ありませんが、他の2つは再考する必要がありそうです。
Possessionにおいてはコンピュータスキルの習得が必要です。
Presenceにおいては、「仕事を期限内に仕上げる」
という考えの元、先輩に相談するという選択もあります。
B君にはソフトの使い方を教え、困ったらすぐ相談して欲しいと伝えました。
その後、コンピュータは使えるようになりましたが、人に相談するのは苦手で、相談はゼロではないものの少ないままでした。
改めてB君に話を聞くと、「相談することで相手の時間を取ってしまうのが悪い」とのこと。
この時点でもう一度3つの視点で考えると、次のようになります。
- Possession:コンピュータスキルを獲得し、必要なスキルは揃っている
- Behavior:相談することは分かっているが、相談できていない
- Presence:「人に相談するのは相手に悪い」という考え方を持っている
今度はPossessionに問題はありませんが、他2つについては考える必要がありそうです。
Behaviorにおいては相談するという行動を起こすことが必要です。
Presenceにおいては「人に相談して仕事を期限内に行う」という考え方を選択できるようにする必要があります。
育成担当者は、B君に「相談する」行動を起こしてもらうべく、B君が相談に来た時にはしっかり話を聞いて、相談してくれてよかったと伝えるようにしました。
さらに、こちらからもB君に現状を確認し、アドバイスすることで、相談した方が仕事が早く進み、全体の利益に繋がることを実感してもらいました。
また、B君は本当に忙しい人への相談は後回しにする、相談事項はまとめておくといった「人の時間を取らない」という考え方も大切にしました。
このように3つの視点で関わることで、相手に必要な成長ポイントが見えてきます。
例では先輩社員が考えていますが、コーチングセッションではコーチとクライアントが対話により今何が必要かを考えます。コーチは3つの視点で考えられるよう質問し、クライアントの答えを聞いたり、反応を観察したりしながら成長ポイントを発見します。
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