ここでコーチは、相手の信条に触れる力強い質問をしました。
コーチングに「信じる」という表現はあまりそぐわないのですが、社長のNさんが会社の可能性を信じなくては、社員を引きつけるビジョンは描けないという前提で、コーチは「信じる」という表現を使いました。
また、セッションの最後にこうした質問をすることで、次回までNさんは考え続けるだろうという狙いもあります。
これはコーチングの3原則でいえば「継続性」です。
セッション中に行われることだけがコーチングではなく、セッションとセッションの間の思考や行動も含めてコーチングは「継続」しているのです。
ビジョンの設定
宿題をもらったNさんは、次のコーチングセッションまでにビジョンを考え、幹部社員たちの意見を集めてきました。
Nさん「私はこのビジネスで、ナンバーワンの会社を作り上げたいと思っています。実は創業者も、そういう思いを持っていました。できれば20年のうちに実現させたいです」
コーチ「ナンバーワンですか。それは何のナンバーワンですか?」
Nさん「もちろん売上ナンバーワンです」
コーチ「そのことについて、幹部社員の皆さんはどのような意見を出されたのでしょうか?」
Nさん「彼らの反応はよかったですよ」
コーチ「反応はよかったのですね。彼らから、何か提案はありましたか?」
ところが、特に幹部社員から提案はなかったそうです。
そこでコーチはNさんに次のことを伝えました。
- 売上ナンバーワンというビジョンは分かりやすい
- しかしそのビジョンには会社の特徴が反映されていない
- ビジョンへの道筋をイメージするには抽象度が高い
Nさん「なるほど。もっと会社の特徴を意識した方がよいわけですね」
コーチ「Nさんが同意して下さるのなら、ビジョンを見直してみませんか?」
Nさん「そうですね。考え直してみます」
コーチ「ありがとうございます。もしよろしければ、御社の歴史を教えて下さい」
そこでNさんは会社の歴史を説明しました。
この会社は、インターネットの今後の普及を考えて、パソコンを一般の人たちにも使いやすいものにしようと、1990年代初頭に設立されたこと。
現在に至るまで、マウスから無線接続機器まで、一般消費者に使いやすいものを製品化して販路を拡大し、社会に貢献してきたこと、その後法人顧客も開拓して、安定した取引をしていること。
コーチ「その歴史を踏まえて、次回までにビジョンを直していただけますか?」
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