ここでビジョンという言葉が、突然出てきました。
過去のビジョンという言葉を引き出す、何か「引っかかり」のようなものがあったのではないでしょうか。
なぜなら、人は経験と照らし合わせて物事を考えることがあるので、その経験を知らない他人には唐突でも、発言している当人には理由があるのです。
ましてや「やはり」という言葉。
あたかも自分の仮説があたっていたという言葉まで添えています。
コーチ「ビジョンを掲げて、社員を動かすこと、ですか、ところで「やはり」の理由は何でしょうか?」
一瞬Nさんの表情が曇りました。
Nさん「実は過去に、ビジョンを掲げて失敗したことがあります」
コーチ「そうだったんですか。何があったのか、具体的に教えていただけますか?」
社長就任時に、Nさんはビジョンを掲げて中長期的計画を作成し、それに基づく売上目標を作りました。
しかし、社内周知の徹底に問題があったのか、ビジョンの内容が曖昧だったのか、ビジョンはもちろん、中長期計画にも社員は気に留めず、意識したのは売上目標だけだったそうです。
しかも、多くの企業で見られるように、単なる目先のノルマとして管理職を含めた多くの社員に受け取られ、達成しないと立場が悪くなって昇進に響くという誤解も広がり、ひたすらノルマを達成することだけを社員を追い求めたそうです。
結果として、自分のノルマの邪魔になるからと、同僚にもお客の情報を与えないという、社員同士が敵という風土が社員にできあがってしまったと、Nさんは言います。
コーチ「その時の失敗の原因は、どんなことだったのでしょうか?」
Nさん「それがよく分からないんです。ビジョンが不適切だったのか、中長期計画が悪かったのか、売上目標が厳しすぎたのか」
コーチ「今のお話ですと、会社にビジョンを浸透させることについて、苦手意識のようなものはありますか?」
Nさん「いいえ、逆に再挑戦するいい機会かもしれません。前回の失敗を踏まえて、ビジョンを会社に浸透させ、社員の行動を活性化させます」
コーチ「力強いお言葉ですね。それをコーチングのテーマにできますが、他に話したいことがあれば、お話を伺ってから最終的なテーマを決めましょう」
Nさん「やはり私は、ビジョンを浸透させ、社員たちの行動を活性化させたいと思います」
コーチ「それでは、社員たちがどんな言動をすれば、コーチングのゴールに達成したことになりますか?」
コーチの質問に対して、Nさんから複数の候補が出てきました。
- Nさんがビジョンに基づいた経営をしていると、社員が認める状態
- 社員がビジョンを日常的に語っている状態
- ノルマよりビジョンが社員たちの意識に強い状態
- ビジョンに基づいた新しいアイデアが社員から発案されている状態
- そのアイデアだけでなく、新しい取り組みが社内で行われている状態
- ビジョンに基づいた体制の見直しが完了している状態
- ビジョンに基づいた新しいビジネスモデルができている状態
コーチ「どの候補をゴールとしますか?」
Nさん「全てといいたいところですが、実現しやすいのからしにくいのまでありますよね」
コーチ「確かにそうですね。事前のお話では、コーチング期間は半年ですから、そのことも踏まえてお考え下さい」
しばらくの間、Nさんは考え込みました。
Nさん「ビジョンに基づいた、新しい取り組みが社内で行われている状態にしたいと思います」
コーチ「どうしてそれを選ばれたのですか?」
Nさん「せっかくのコーチングですから、難しいテーマにチャレンジすることも考えましたが、ビジョンを描いて社内に浸透させ、新しいビジネスモデルの構築までを半年でやるのは現実的ではないですし、無理をすれば組織に副作用が起きてしまいます」
コーチ「なるほど。それではビジョンに基づいた、新しい取り組みが社内で行われることは、実現しやすいゴールでしょうか?」
Nさん「いいえ。現状を考えると、それも高いハードルです。しかし、実現できないとは思いません」
コーチ「分かりました。では、どのゴールの達成を、何をもって測りましょうか?」
Nさん「例えば、新しい取り組みでも、幹部会議の課題に限れば、その質は高いと思います。幹部会議の課題になる数ではだめでしょうか?」
コーチ「もちろん大丈夫です。ところで、議題の数がいくつになれば、コールの達成といえるでしょうか?」
Nさん「議題になるには管理職の承認が必要ですから、社員には厳しい条件と思います。そういう意味で、ビジョンに基づくものが3つ上がってくれば、ゴールの達成としたいと思います」
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