Theコーチング

普段何気なく使っている手法や考え方を改めて言葉に落とす、暗黙の了解を形式知化するという作業に取り組んでいます

双方向

双方向

このエントリーをはてなブックマークに追加

双方向の会話と、つもりの会話の違い

クライアント「すみません。先週やると決めたことができませんでした」

コーチ「あなたが目標を達成するためには、必要だったことですよね?」

クライアント「はい、そう思います」

コーチ「分かっているのになぜできないんですか? なぜやらないんですか?」

クライアント「そうですよね。すみません」

このような、コーチ側に強い先入観や正解ありきの質問をしているコミュニケーションは、言葉のやり取りをしているだけで双方向とはいえません。

コーチがクライアントに言いたいことを一方的に伝えているだけです。

上の会話例では、「目標達成のためには、やると決めたことはやるべきだ」というコーチ側の強い価値観・信念の元、「とにかく、もう一度やると約束させよう」という着地点があらかじめ決まっている誘導的な質問になっています。

コーチとクライアントが対等な立場ではありません。

では、双方向が成立している場合はどうなるのでしょうか?

クライアント「すみません。先週やると決めたことができませんでした」

コーチ「何か理由があったのですか?」

クライアント「緊急トラブルへの対応に追われてしまって。頭の片隅には常にあったのですが」

コーチ「それは大変でしたね。忙しい中でも、目標に向けて前進するにはどんな工夫ができますか?」

クライアント「優先順位を明確にして、取り組んでみようと思います」

最初の会話とは違い、同じ目線で言葉のキャッチボールができています。

相手の発言を受けて、自分の言葉を投げかけ、またそれに返して……というやり取りの繰り返し、それが双方向の会話が成立している状態です。

クライアントの自走状態を作ることがコーチの役割

クライアントとの対話は、常にクライアントの目標達成に関するものでなければなりません。

そもそもコーチングの目的は、目標達成を支援することによってクライアントを長期的に成長させることにあります。

長期的な成長とは、クライアントが目標達成までのステップを1歩ずつ着実に上がりながら、目標に向かって常にチャレンジし続けている状態のことです。

最終的にはコーチがいなくても、自ら考え行動できる状態、つまりクライアントを自走状態にさせることがコーチの役割です。

コーチはクライアントとの対話の中で、自分自身や会社、上司や部下などについてじっくり考えてもらう時間を多く作ります。

それを繰り返すことで、クライアントが自分自身に問いを発し、それに答え、行動するというセルフコントロールが可能となるのです。

ビジネスパーソンの多くは、会社から与えられた目標のために「自分はどこに向かっているのか」「そのために今していることはどんな意味を持つのか」などと考える余裕もなく、周囲の景色を見る余裕もなく走り続ける新幹線のようです。

変化の早い現代においては、企業組織内での個人の役割もそのスピードに応じて変化していきます。

その時、いち早くその状況に対応し、成果を上げていくためには、他者から方法を教わる、指導されるという受け身型の方法では限界があります。

コーチはクライアントが自分自身と直面し、目標や自身の成長に向けて、徹底的に考えるための対話を作り出すのです。

双方向の会話で「無意識を顕在化」させる

某企業のA経理部長は、相手の話をじっくり聞くことができないという悩みを持っていました。

その理由は「前置きや説明が始まると『また始まった』と思ってしまう。

特に、相手の話に論理性が欠けていると、聞こうとする気がなくなってしまって、そのあとはほとんど内容が耳に入らない」とのこと。

なぜ論理性を重視するのかというと、A部長は「ビジネスの場では、短時間に相手を納得させるためにロジカルに話をすることは、当然重要なことではないですか」と言ったそうです。

「部下は上司に『当然』論理的に話すものだ」という信念、つまれPresenceがあったのです。

コーチはクライアントが「当然」そうだと思っていることについて深掘りしていきます。

クライアントの無意識での思考パターンや物事の捉え方を顕在化させることで、目標やクライアント自身の成長にそれが有効なのかを検証していきます。

もし、今までの思考パターンや物事の捉え方がブレーキになっていることが分かれば、今までとは違う選択肢が存在することが分かり、行動を変化させるきっかけとなります。

このようにコーチは、クライアントの無意識での思考や行動の原因をアウトプットさせて自覚させることで、クライアント自らが目標や成長に向けた最も有効な方法の選択、実践、軌道修正ができるよう支援します。

たくさんアウトプットさせることが重要

コーチは、クライアントに様々な視点で話をしてもらいます。

もちろん、クライアントの目標達成に向けた長期的成長という意図を持って無意識を顕在化させていきます。

無意識下のものを言語化させて、行動に結びつくような気付きを得るには、クライアントにたくさん話してもらう必要があります。

クライアントが多くのこと言語化する中で、有効な「気付き」が得られるものです。

オートクラインとバラクライン

「気付き」が起こる仕組みを、少し別の視点から捉えてみましょう。

話はぐっとミクロになりますが、私たちの身体は平均60兆個もの細胞からできています。

A細胞が情報を発信して、近隣のB細胞のレセプター(受容器)がそれをキャッチする作用を「バラクライン」といいます。

ところが、自分が発信した情報は自分自身にも作用していることがあるのです。

これを「オートクライン」と呼びます。これを人に置き換えてみると、AさんはBさんに話をしながら自分自身にも話をしていることになります。

人は、会話の中で自分の内部の情報をアウトプットすることで、初めてその情報を正確に認識することができるのです。

会話を交わすことで言語化し、アウトプットすることで自分のアイデアを認識する、つまりオートクラインを起こすのです。

オートクラインによってもたらされるのが「気付き」であり、クライアントにオートクラインを起こすことが、コーチの重要な役割の1つといえます。

オートクラインを起こすための対話

対話の中で、クライアントのオートクラインを効果的に起こすには、対話の質と量を向上させる必要があります。

質を上げる有効な手段として、重要な技術が「質問」です。

コーチは「質問のプロフェッショナル」ともいわれますが、クライアントの潜在意識に質問で働きかけ、無意識を顕在化させるのです。

また、対話の量を増やすためには、コーチとクライアントの間の信頼関係が重要です。

クライアントに「話を聞いて欲しい」「コーチと一緒に取り組みたい」という気持ちがない限り、いくらコーチが質問を投げかけてもクライアントは多くを話さないでしょうし、表面上の会話になってしまう可能性も高くなります。

質問でオートクラインを起こす

コーチは効果的な質問を投げかけることで、クライアントの思考パターン、成功体験、信念、価値観などのリソースを顕在化していきます。

私たちの大脳には、前頭葉と側頭葉という部分があります。

前頭葉は他の領域の機能を働かせる命令を出すことから「脳の司令塔」と呼ばれます。

対して、知識や経験などを蓄積しているのが側頭葉です。

普段「こんな時はどうしたらいいのか」といった問題に直面すると、前頭葉がデータベースの側頭葉を検索し、知識や経験に基づく答えを返す仕組みが働きます。

脳の中では、前頭葉と側頭葉の間で「質問する←→答える」というコミュニケーションが交わされていると解釈できます。

ここで「双方向の会話で「無意識を顕在化」させる」のA部長が再登場です。

話が冗長で、論理的でない人を前にすると、どうしても話を聞く気がなくなってしまうA部長の前頭葉は、「論理的でない人にはどう対応する?」という質問を側頭葉に投げかけ、それに側頭葉は「話を聞かなくてもいい」と返しているのかもしれません。

その結果、行動がワンパターン化してしまうのです。

コーチ「論理的ではないのに、話が聞ける相手はいますか?」

A部長「7歳になる娘の話は聞く気になりますね」

コーチ「その時、何を思って聞いているのですか?」

A部長「論理的かどうかは関係なく、何が起きたのだろうと興味で聞いています。そもそも娘には論理性など期待していないです。むしろバラバラな話を自分で結びつけながら聞いています」

話しながら、論理性が欠けている相手の話も聞けている自分に気がついたA部長は、その後、部下の話に「論理性はあるか」ではなく「何が起きたのか」に意識を集中して聞いてみることにしたそうです。

この時、コーチは「論理的でない人が相手でも話を聞くことができた経験はないだろうか」という意図を持って質問しました。

そして、論理的ではない娘さんの話を聞くための方法を明らかにしていきました。

このように、コーチは様々な視点から質問を投げかけることによって、クライアントにそれまでとは別視点で物事を捉えるきっかけを与え、行動の選択肢を広げます。

これが、コーチが質問という形で働きかけてクライアントにオートクラインを起こさせる仕組みです。

ここで大切なのは、クライアントが普段から自分に問いかけている質問と同じ質問をコーチがしても、オートクラインはなかなか起こらないということです。

効果的な質問をするためにも、クライアントがつまずきやすいポイントは何なのか、どんな思考パターンを持っているのか把握しておく必要があります。

オートクラインを起こすための効果的な質問を投げかけるように、常にクライアントに興味を持ち続けることが、コーチの重要な姿勢といえるでしょう。

双方向が効果的な質問を生み出す

駆け出しのコーチが失敗するケースとして、クライアントの成長を促進させたいと思うがあまり、対話の双方向性を忘れてしまうことがあります。

例えば、自分の聞きたいことだけを聞いてしまうことです。

クライアントからアイデアを引き出すために、たくさん質問すればよいというものではありません。

相手の答えを受け止めて、その答えに関連した質問を投げかける、返ってきた答えについて別の角度から質問して……と、双方向のやり取りの中から効果的な質問は生まれます。

ですから、事前に用意した質問しかできないコーチは、クライアントにオートクラインを起こさせて多くのアイデアを引き出すのは困難でしょう。

双方向でない、一方通行のコミュニケーションにもメリットはあります。

実際の企業の現場を見れば、部下1人ひとりの行動を明確に指示するため、一方通行の関わり方で成果を上げているマネージャーも多くいます。

ではなぜ、コーチが一方通行ではなく双方向の関わりを取っているかというと、クライアントの長期的な成長を視野に入れているからです。

短期的なものであれば、直接やり方を教えたり、行動を支持したりする方法も結果が出るかもしれません。

しかし、コーチングのコーチはクライアントの長期的な成長を意図していますから、双方向の関わりを継続的に持つことでその実現を図るという戦略をとっています。

オートクラインを起こすための必要な信頼関係

コーチングは目標に向けて行われるものですから、変化が起こらないようなクライアントに対しては、コーチから行動することを求めたり、現在地点に直面させたり、緊張を与えたりもします。

それには、「必ず成長するはずだ」という期待が前提にあるのですが、クライアントにとっては必ずしも毎回心地よい会話ではないかもしれません。

だからこそ、コーチとクライアントには信頼関係が必要なのです。

クライアントが、コーチにどんな時、どんなことを言っても大丈夫だという安心感がなければ、当たり障りのない表面的なことだけを扱うコーチングになってしまいます。

それでは、いくら効果的な質問をしたとしても、クライアントは自分の中の深い思考には辿り着けません。

そのような状態では、もちろんオートクラインを起こすことは難しくなります。

信頼関係の作り方

通常、コーチングは短くても数ヶ月~半年間継続して実施されます。

特に初回のセッション時は気を配ります。

なぜならクライアントのコーチングへのコミットメントを高め、目標達成のモチベーションを上げるためには「このコーチとともに目標を達成したい」と思わせなければならないからです。

いち早く目標達成するためには、できるだけ早く信頼関係を築き、クライアントが安心して話ができる環境を作ることが重要です。

信頼関係構築の基本は、互いを知ることから始まります。

具体的には、入社してから今のポジションに至るまでの経歴、成功や失敗体験、武勇伝、仕事への思い、信念、1日の過ごし方などのビジネスに関することはもちろん、趣味、家族構成、好きな本などプライベートについても話します。

お互いの情報を交換することで、親近感を高めることができるのです。

心理学では自分の心を開くことを「自己開示」といいますが、自分が心を開くと相手もそれに応じて心を開いてくれるという「返報性の法則」があります。

つまり、クライアントに心を開いて欲しければ、まず自分が心を開く必要があるのです。

信頼関係の初期段階として、まず親近感や安心感をクライアントに抱いたもらうため、互いのことを知るのは非常に重要です。

率直に要望して信頼関係を強める

セッションが進行する過程で、コーチはクライアントに対して何らかの要望をします。

コーチングによって引き出されたアイデアを、次のセッションまでに実行して欲しいとリクエストすることも珍しいことではありません。

クライアントの行動が停滞している時には「もう少し行動のスピードを上げて欲しい」、視野が狭くなっていれば「客観的に自分の行動を振り返って欲しい」と要望することによって、コーチはクライアントの行動を促進します。

これは、言いにくいことも率直に言い合える関係と言うこともできます。

コーチは、クライアントの目標達成や成長のために必要だと思うことを率直にリクエストします。

また、クライアントからのリクエストにも応じます。お互い相手にして欲しいことを伝え合い、それを実行するという繰り返しながら信頼関係を構築していきます。

クライアントのオートクラインを戦略的に起こすために、「質問して答える、それに対して質問する」やり取りを繰り返し、そのベースには常に信頼関係がある。

これが双方向の対話が実現している状態といえます。


« »

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です