導入の背景
一般に工場では、製品の生産だけではなく、効率やコスト、不良品率の指標改善などが、経営陣のみならず社員にとっての関心事となります。
このケースの機械部品工場も、生産効率の指標が低迷していることから、コーチングで約200名の社員の士気を高め、成果を生み出す組織を作ろうとしました。
導入を決めたのは工場長でした。
彼は社員のコミュニケーション、特に部署間のコミュニケーションが改善することで思い違いやトラブルが減り、効率が良くなるという仮説がありました。
そこでコーチと相談して、工場の生産効率上昇を目指し、社員のコミュニケーション力を向上させるプロジェクトを半年という期間で導入することにしたのです。
事前のプランニング
まず工場の状態を知るため、工場の管理職全員に生産効率が上がらない理由をインタビューしました。
結果として、「自分の業績に追われ、部下を見ることができない」「他の部署との助け合いのコミュニケーションがない」「無駄な業務が多く、やらされ感が蔓延している」との意見が多く出されました。
更に、このような発言も。
技術部長「業務内容が煩雑になっているし、部下は疲れて意見も言ってこない。これで効率を上げろと言われても無理です」
総務部長「今までコンサルタントが来ても、業務量が増えた割に効率が良くならず、下から文句ばかり言われます。これでコーチングなんてやめて下さい」
デザイン部長「技術部と製造部で話せば済むことにも、私までいちいち呼ばれ、やっていることはデザインに関わることでなく揉め事の仲裁ばかりです」
次に、インタビューで明らかとなった課題について、詳細まで分かる質問項目を作成して、全社員にアンケートを実施し、管理職社員の意見が的を射たものであるか確認しました。
アンケート結果によって、コーチング導入に否定的な管理職も、新しい取り組みを始めないと悪い方向に向かう危機感を持ち、受け入れるかもしれないとの期待がありました。
【アンケートの意見例】
- 上司との会話が、やる気を下げる
- 上司から誉められたことはほとんどない
- 無駄な業務をなくす提案をしても、何も変わらなかった
- 他部署の業務にまで気が回らない
- 他部署から迷惑をかけられても謝罪がない
想像していたとはいえ、データとしてまとまった分析結果や社員の声を突きつけられると、工場長は大きなショックを受けました。
そして、他の管理職社員も、工場に対する危機感を持ち、コーチングに表立って反対する声は消えたのです。
一方でコーチは、生産効率を上げるにはコミュニケーションの改善が必要だという、工場長の見立ては間違っていないと考えていました。
ただし、単にコミュニケーションを改善するのではなく、生産行動が上がるための「望ましい行動」を明確にする必要があります。
つまり、「望ましい行動」を見つけ出して、全社員がそれを行えるようにコミュニケーションを活発にさせる必要がありますし、「望ましい行動」が習慣化していくためにもコミュニケーションが必要になってくるとコーチは考えていました。
コーチの仮説 | ||
コミュニケーションの改善→↓「望ましい行動」の明確化↓
「望ましい行動」の承認 ↓ 「望ましい行動」の習慣化 ↓ 「望ましい行動」の情報を共有化 ↓ 生産効率の上昇 |
無駄な業務の合理化→ | 時間配分の変化↓部下育成の強化 |
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そこでコーチングプログラムの切り口を決めました。
- 無駄な業務をなくし、部下育成の時間を増やす
- 「望ましい行動」を明確化し、「承認」した上で習慣化する
- 社員間、部署間で情報を共有する
コーチングの対象は、全職場ではなく、生産効率の数字に大きな影響を与える技術部と製造部に絞りました。
これは、コーチのエネルギーと時間を特定の職場に集中させ、成果を早く上げるためです。
また成果が早く出ることで、他の部署の社員の注目を受けて、工場全体のモデルとして認知されることも期待していました。この時出た意見は、以下のようなものでした。
技術部長「無駄な業務をなくしてくれるなら、コーチングは歓迎します。でも、あまり私の時間を取られるのは困ります」
製造部長「部下は、現場も知らないコーチが来て、一体何ができるのかという不安と不満を持っています。実は私も同じ気持ちです」
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