商品開発の部署に属しながら、新たに自ら商品を販売するというミッションに加わったA氏の例です。
組織目標は「半期で3000万円の売上を上げる」と設定されました。
この目標にA氏は「私の仕事ではない」と同意できていないようでした。
コーチのアプローチは、「決まったものはしょうがない。愚痴を言わずに頑張りましょう」と励ますことでも、「営業を経験することは、この先の商品開発に役立ちますから」と諭すことでもなく、「では、あなたの目指したい目標は何ですか?」という問いかけでした。
「私はとにかく市場に良い商品を提供して世の中の役に立ちたい。そのためには営業なんてやっている場合ではない」A氏の中には、営業活動は商品開発の妨げにしかならないという先入観があるようです。
「売上目標については、一旦横に置きましょう。そもそもAさんは良い商品を提供してどうしたいと思っているんですか?」
「だから世の中の役に立ちたいんです」
「いつ頃からそう考えるようになりましたか?」
「随分前に、うちの商品を消費者として使ってからです。すごく良い商品で、自分もこんな商品を世に送り出したいと思ったんです。こんな商品があったらお客様も喜ぶのに……なんてアイデアも豊富だった頃です」
こうやって丁寧にコーチは「あなたは人生を通して何を成し遂げたいのか?」をA氏に聞き続けました。
A氏が十分自分の内なる想いを吐き出したという頃合いを見計らって、再度問いかけました。
「今回の営業の目標に対してどのような姿勢で取り組むか、私は強制することはできません。ただ、これは組織から与えられた目標ですから、やらないという選択肢はないと思います。ならば、営業をやることがAさんにとって本当に意味がないことなのか、嫌々やらなければならない仕事なのかどうか、もう一度冷静になって私と共に検証してみるというのはいかがでしょうか?」
その後、コーチの提案の同意したA氏は、営業をやることで得ること、失うことを思い付く限り棚卸ししていきました。
その際、コーチは「Aさんの目的から見ると、営業をすると言うことはどういう意味があるのか? 何に繋がるのか?」と問いかけました。
- 開発者という立場で営業に行くことで、今まで営業マンが収集できなかったより詳細なフィードバックが得られる
- お客様よりいただいたフィードバックに対して、その場で対応する/対応できない/回避策等の提示ができる。それはそのままお客様の安心と喜びに結びつく
- 商品開発のアイデアをお客様に提示して、市場の反応をダイレクトに感じることができる。新しい商品や機能のアイデアをお客様と一緒にディスカッションできるかもしれない
- 自分が先陣を切って売上を上げれば、営業サイドに対する発言力を増すことができる
A氏の中で目標達成した先に何があるのかが鮮明になるにつれ、A氏の目標に対する意識は高まりました。
最終的にA氏は「どのみちやらなきゃいけないんなら、嫌々やるんじゃなくて徹底的にやります」となったそうです。
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